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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和51年(少)431号 決定

少年 S・O(昭三五・七・一八生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

一  審判に付すべき事由

(一)  虞犯保護事件

少年は当時中学三年生であつた昭和五〇年七月一六日銃砲刀剣類所持等取締法違反、恐喝、傷害で当裁判所において福岡保護観察所の保護観察処分に付されたが、その後も行状は改まらず無断外泊、ニス吸引をなし担当保護司の積極的な指導も効なく、同年一二月一五日同保護観察所北九州支部の保護観察官に対して事情調査をされニス・シンナー・ボンドを吸引しないことを誓約しながら、更に吸引仲間とシンナーを吸引し続け、両親が注意しても聞き入れず時には精神錯乱状態になり、担当保護司、観察官の指導に全く従わないため同年一二月二七日同保護観察所から当裁判所に対し犯罪者予防更生法第四二条第一項による通告がなされた。

当裁判所は昭和五一年一月三〇日少年に対し観護措置をとつたのち同年二月二三日試験観察に付して少年の動向を観察したところ、少年は中学を卒業し福岡市内の左官請負業者のところに住込んで働き一時は立ち直るかに見えたが、再びシンナーを吸引しだし、仕事を怠け、更に自動車を無断で乗り大破させたり同僚に暴行を加える等して解雇され、五日位家にいたが以後は家出をして夜間両親が寝静まつてから帰宅し食事をし家を出て公園等に寝て友人達のところを転々としてシンナーを吸引するような日をくり返し、警察官による補導も三回にわたつている。従つてこのまま放置するときは将来罪を犯す虞れが極めて大きいものである。

(二)  窃盗保護事件

(1)  昭和五〇年一二月六日午後一時一〇分頃北九州市若松区○○×丁目×番××号○谷○金○前路上において○谷○所有の原動機付自転車一台(時価約二万円相当)を窃取し

(2)  昭和五一年一月二二日午後一一時一〇分頃同区○○×丁目×番×号○久○装○倉庫において○久○英所有の塗料シンナー一鑵(時価約一〇〇〇円相当)を窃取し

たものである。

二  法令の適用

上記一の(一)の虞犯について、少年法第三条第一項第三号イ、ロ、ハ、ニ同一の(二)の各窃盗について 刑法第二三五条

三  処分理由

本件記録および当裁判所の調査、審判の結果によれば、少年は未だ小学生であつた昭和四七年頃から暴行、窃盗の非行が始まり、昭和四八年に入つてシンナー・ボンドの吸引や無断外泊をするようになり昭和四九年一月三〇日に教護院(○○学園)に収容されたが同年七月二〇日保護者の希望で帰宅したものの、次第にその非行性が昂じ上記の如く保護観察処分に付された後試験観察決定のなされるまでの間に上記の窃盗をし、更に虞犯性も増加してきたものと思われる。少年の両親は少年に充分な愛情を持つてはいるが、父は交通事故により療養中であり、母の力をもつてしては全く指導できなく、現在では両名とも少年のシンナー吸引の激しさから少年の身体を思う余りこれを治す為には施設収容も止む得ないと考えるに至つている。更に○○少年鑑別所の鑑別結果通知書によると、少年の知能は普通域にあるが、オプタリゾンシンナー等有機溶剤嗜癖に陥り、資質面では強い自己顕示欲や支配欲を持つ反面気が弱く、自信に乏しく、社会的無力感をもつており現実不適応感が強い。シンナー耽溺はその不適応感やみたされない自己顕示欲の吐け口であることを指摘している。

以上を綜合すると保護者や保護司、保護観察官更に当裁判所調査官の熱心な指導も少年には殆んど効果があがらずこのままの状態ではシンナー等の吸引が一層ひどくなり、身心に対する害悪は重大になるものと考えられ、またその非行性も昂進することは明らかであり、在宅補導はすでに限界を超えているので、この際少年を中等少年院に送致してシンナー等の吸引を遮断すると共に規律ある矯正教育を施すことによつて保護の万全を期することが相当であると思料する。よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤敦夫)

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